沙耶の唄 感想

沙耶の唄 Nitro The Best! Vol.2

総評 160/200(優)

『沙耶の唄』は、グロ描写で有名な作品である。だが、”グロいから”という理由だけで評価されているのではない。

本作品に、量産型のキャラ萌えはない。誰もが心地良いと感じる雰囲気もなければ、プレイし終えた後の達成感もない。そこにあるのは狂気と純愛だけで、それ以外の『友情』とか『正義』といった要素は最初から拒絶されている。

本作品は、杜撰な構成ゆえに人を選ぶのではなく、その偏った内容ゆえに人を選ぶ。その秀逸なシナリオとグラフィックとサウンドの三位一体でもって、狂気と純愛を強烈に主張してくる。『沙耶の唄』のそういうエロゲとして異質なところが、個人的にはかなり気に入っている。

シナリオ 55/80点

作中でも示唆されているように、『沙耶の唄』のシナリオはある漫画のオマージュだ。その漫画とは、手塚治虫 先生の代表作『火の鳥』の『復活編』である(※とても面白い作品なので、未読の方はぜひ手にとってほしい)。

本作品では、あの『火の鳥 復活編』の設定をさらに過激にエスカレートさせている。主人公 郁紀の目には、この世のあらゆるモノが、生き物の臓腑のような化け物に見える。町に漂うにおいは汚臭に、普段の食事は吐き気をもよおす味として感じられる。
そんな五感の異常を呪っていた郁紀は、この世にただ1人だけの、美しい少女『沙耶』と出会う。お互いに寂しかった郁紀と沙耶は、一緒に暮らすようになり、そして狂気と純愛のなかに溺れていく……。

『沙耶の唄』が描くテーマは、非常に分かりやすい。それはまさに狂気と純愛であり、それ以外には何も見当たらない。カニバリズムやら<クトゥルーに影響された、バイオレンスでグロテスクでルナティックな描写で、郁紀と沙耶の倒錯した『純愛』が徹底的に表現されていく。

普通の美少女ゲームと違って、『沙耶の唄』に明るい”萌え”や”燃え”なんかどこにもない。だから、本作品を十二分に堪能するためには、”楽しさ”とか”爽快さ”を求めるのは早めに止めたほうがいい。プレイヤーは『狂気』に満ちた雰囲気に酔いながら、沙耶への『純愛』に溺れてゆけばいいのだ。

沙耶さえいれば他には何もいらない――そういうエゴイスティックな気持ちに浸ることができれば、『沙耶の唄』は、あなたにとって最高のエロゲにもなり得るだろう。

グラフィック 50/60点

基本CG枚数は85枚。5,040円という価格を考えれば、奮発したほうだ。

本作品のグロテスクな背景やモノは、本当に「嫌がらせか?」と思えるほど丁寧に描かれている。例えば、素手で引きずり出された贓物がそこら中にぶちまけられている様を想像してみよう。それがこの作品のCGのデフォルトだ。特に、冷蔵庫のなかに保存された人間の解体物なんて、思い出すだけで吐き気がする。

そういう気色の悪いモノがリアルに描かれている一方で、登場人物たちの立ち絵やイベントCGは、ラフタッチで描かれている。もちろんラフといっても、その線はとても力強くて、甚だしく手抜きされているわけではない。むしろラフな人物像とリアルな背景が対比された結果、グロテスクな絵がよりグロテスクに映えて、とてもとても気持ち悪い。

そうした対比を演出として捉えるなら、それは間違いなく成功していると思う。もしあなたに執拗なグロに耐え抜く自信があるなら、ぜひ無修正のままで堪能してほしい。

音楽・声優 40/40点

音楽は全15曲で、うち2曲がボーカル曲。BGMは不協和音を巧く活かして、作品全体の狂気を盛り上げてくる。ボーカル曲はどちらも良いが、私の好みでいうと『ガラスのくつ』が神曲。この曲のために、OSTを購入した。

声優さんの演技は、どなたも素晴らしく良かった。特に、主人公を演じる氷河流さんの声は相変わらずの妊娠ボイスだった。

システム 15/20点

特に不満なし。グロが苦手な方向けには、修正を掛ける機能がある。

エッチ内容について

オーソドックスなエッチに加えて、3Pや監禁プレイもある。が、この作品のエロを実用目的に使うのは、かなり難易度が高いと思う……。

作品情報

タイトル 沙耶の唄
ブランド Nitro+
発売日 2003年12月26日
ダウンロード販売 DLsite DMM
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