総評 100/200点(可)
ハイレベルの演出、音楽、システムの良さが光る作品――だが、それら全ての功績を、愚にも付かない最低のシナリオが台無しにしてしまっている。
制作者は、ちゃんとプロットを組んで、こんなシナリオを書いたのか。私がこれを読む限り、アイディアを思いついた端から詰め込んで、やっつけ仕事を仕上げたようにしか思えない。プロとしてはまったく話にならない、お粗末なシナリオ構成だ。
シナリオ 5/80点
公式のストーリー説明を読むぶんには普通の純愛モノかと思えるが、実際には純愛とハーレムが中途半端に入り混じった物語だ。
シナリオの大部分は、主人公に寄り添うヒロインたちとのコメディ。このコメディを手放しに面白いと思えるようなら、プレイヤーは、ひょっとすると、この作品を楽しめるかもしれない。しかしそうでなければ、プレイすればするほどイライラが募ってゆき、エンディングを迎えたころには蟀谷が引きつっていることだろう。そして、何故こんなものをフルプライスで買ったのか、と自問自答するのだ。
主人公はシナリオ序盤から、理由も分からずモテまくる。
しかし、主人公は恋愛に鈍感で、しかも「恋をする気持ち」が分からないという。それゆえ、ヒロインたちにどれだけアプローチされても、気のない反応しか示さない。メインヒロイン(このは)ルートでは、流石に”主人公が恋できない理由”が明かされるが、その理由自体”お花畑的なファンタジー”で、”18歳以上”の大人が得心のいくものではない。
コメディばかりで少しも話の進まない序盤~中盤を乗り切ると、ようやく起承転結の”転”にあたる部分が見えてくる。しかし、その”転”に至るための伏線は、いったいどこにあったのか不明である。
制作者にとって都合の良い”転”の後には、もちろんご都合主義のオンパレード。エンディングへ向けてプレイヤーを感動させよう、させようとする努力があからさまに見て取れて、こちらもそれに呼応するように、はやく終われ、終われ、という願望が疾走していく。
肝心のエンディングは、どれもそれまでの筋から予測可能なものばかり。そしてその予測可能なエンディングのうち、斜め上へと昇天するのが、このはルートである。そのままバッドエンド寄りに終わらせるなら未だしも、最後の最後でアレはないだろう。あまりに下らなすぎて、私は醒めた笑いしか出てこなかった。
CG 40/60点
原画は単独ではなく、月杜尋 , 悠樹真琴の両名が担当している。そのせいか、立ち絵とイベントCGの見栄えに、明らかな差がある。さらにイベントCG自体も塗りに差があり、キャラクターによっては「だれ?」と思えるような絵もある。
キャラクターの描き方は、立ち絵で斜め45度を向いたときに、目の位置や大きさがややズレているように思う。また、顔の塗り自体もノッペリとし過ぎている。
一方、演出については何も文句がない。オープニングのアニメーションの出来はまずまずだし、立ち絵もテキストに合わせて良く動く。特にアバンでのムービーは、これからの桜を巡る恋物語を連想させ、とてもよく出来ていた(※ 残念なことに、シナリオはその期待に答えられなかったわけだが)。
音楽・声優 35/40点
歌やBGMは、美少女ゲームとしてはかなり良いほう。演出ともばっちり連携している。音楽のなかでも、『恋桜』は名曲だと思う。
声優さんの演技は全般的に良い。
だが、愛沢撫子役の澤田 千景さんの演技には難がある。序盤ツンデレの”ツン”の部分を作りすぎて、中~後半の演技が安定しない。特に、泣いている声の演技はとても下手で、聞いているこちらが醒めてくる。
システム 20/20点
本作品の基本システムは、AVGエロゲの模範といって良いくらい良好な出来である。オートやクイックなど必要なショートカットはもちろん全て揃っているし、メッセージ速度や音声も細かく設定できる。さらに、キャラクターの台詞ごとのテキスト色を変えたり、メッセージウィンドウを透過したり、他アプリケーション起動時のアクティブ設定までも弄ることができる。
エッチ内容について
エロシーンはすべてオーソドックスで、キャラクターごとに3本しかない。また残念なことに、綾乃(妹)とのエッチはない。というか、綾乃ルート自体存在しない。