あらすじ
三島冴子は、自殺した文学者の作品を読み続け、記憶することを義務づけられた生体文庫の乙女である。自傷癖のある冴子は「この世から消えてしまいたい」と強く願うようになり、その願望を実現するために、公衆安楽福祉施設行きの地下鉄に乗った。
公衆安楽福祉施設は、どうしようもない自殺志願者の最後の受入口だ。ここで自殺志願者たちは、本人の合意のもと、最終的解決を施される。その解決方法は、その者を政府公認の性処理玩具に作り変えることである。
公衆安楽福祉施設の入り口前には、Macht Freiと表された鈍色アーチがある。そのドイツ語の意味は『……によって自由になる』。冴子は、自分の存在をこの世から抹消し、性処理玩具になることを誓う――快楽によって自由になるために。彼女が身にまとうのは、そんな自分のための喪服だ。
『市民・三島冴子の記録を抹消しました』――そのメッセージが表示されて後は、もう、後戻りはできない。しかし彼女は、後悔をしない。三島冴子の名を捨てて、これからの自分に「桜桃」と名づけると、まだ乙女の自分が知り得ないものを与えてくれる場所へと進んでいく。
総評 160/200(優)
これはすごい。すごくエロい! 最初から最後まで興奮しすぎて、プレイ後は燃えつきたような気分になった。枯れるほど精を搾り取られたせいで身体がダルかったが、プレイ後の感動をそのままに伝えるべく、すぐにキーボードを叩いた。
テキストと音声を巧みに組み合わせた本作の表現手法は素晴らしい。シナリオと音声の評価はどちらも優以上。商業の低価格ソフトとしては、当サイト初の高評価とさせていただいた。
満足した、本当に良かった。尖った作風ゆえに賛否両論あることが予想されるが、次回作もこれ以上の内容なら、間違いなく購入させていただく。
シナリオ 55/60点 | 音楽・声優 40/40点
序
まず最初に、ヒロインの置かれている状況と彼女の心情を解釈しよう。本作のテーマを端的に示せば、乙女の快楽への幻想とその崩壊といったところか。冴子もとい桜桃は、自分の存在をこの世から抹消する代償としての性的快楽を公衆安楽福祉施設に求めている。
もっとも、桜桃は乙女だから、性的快楽のなんたるかを実際に知っているわけではない。書物などで見聞したことから、倒錯的な肉欲に対し、勝手な幻想を抱いているだけだ。それは例えば、 2001年度カンヌ国際映画祭Grand Prix作品『ピアニスト』のエリカのように、である。
公衆安楽福祉施設の管理人は、そんな彼女を蔑む。しかし桜桃は、そんな彼の嘲笑など気にしない。何故ならば、これからの自分は『ヒト』ではなく『モノ』であることを自覚している”つもり”であり、また、自らもそれを望んでいる”つもり”だからである。『ヒト』ではない自分が蔑まれようと、『モノ』には傷つくプライドなどありはしないのだ。
施設内を進むと、最初に『Born on a Monday』と刻まれた扉に行き当たる。それは『Solomon Grundy』というマザーグースの歌の一つで、その内容はこう。
Solomon Grundy(ソロモン・グランディ),
Born on a Monday(ある月曜に生まれて),
Christened on Tuesday(火曜に洗礼を受け),
Married on Wednesday(水曜に結婚したけれど),
Took ill on Thursday(木曜には病んで),
Grew worse on Friday(金曜に危篤),
Died on Saturday(土曜には死んで),
Buried on Sunday(日曜に土の中).
This is the end(それで終いさ)
Of Solomon Grundy(ソロモン・グランディ).※括弧内の翻訳は筆者(asmiya)
英文引用元:Solomon Grundy – Wikipedia, the free encyclopedia
この人間の生涯を皮肉る不吉な歌から連想されるものは何だろう? 生体文庫たる桜桃は、すぐにその抜粋が暗示するところを理解した”つもり”になる。ここは私に、死と快楽を与えてくれる場所に違いない――そう思い込むのだ。
ここまでの展開の概要を読むかぎりでは、読者は本作がどんな作品だと想像するだろうか? 死にたがりメンヘル少女のハード和姦物? もしそのように想像したのだとしたら、それは公衆安楽福祉施設に対する桜桃のそれと同じく、幻想に過ぎない。
結論を言えば、本作は和姦物ではなくて、とても巧妙に作りこまれた陵辱調教物である。純粋な乙女ゆえの文学的な空想を、ずたずたに壊してしまおうというサディスティックな作品なのである。
だから断言しよう、これはドSのための作品である、と。
構成について
本作の構成は、大きく3つのパートに分けられる。第1パートが『Took ill Thursday』の扉(中盤)までで、第2パートはそれ以降の本編、第3パートはゲームクリア後に閲覧できる『未詳ノ記録』である。第1~第2パートまでは、完全にヒロインの主観で語られる。
第1から第2まで、つまり本編のほうの完成度は凄まじかった。冒頭のモノローグが流れた際には少し不安を覚えたが、それは杞憂であった。序盤を終えた立場からいえば、これはこれでいい――いや、これだから良いのだ。
通常、この手の調教物は中盤からマンネリズムに没することが多い。特に商業の低価格ソフトだと、終始適当なエロシーンを描くだけのつまらない作品となりやすい。
しかし本作の場合、商業低価格ソフトであるにも拘らず、そうはならない。序盤だけでも優れた内容であるというのに、中盤からが本番で、さらに面白くなっていくのだ。
序盤に張り巡らされた、というよりは、暗示されていた謎が集約され、その意図を理解できていくというこのカタルシス! ヒロインの精神を追い詰めていくサディズム! あからさまに「ここから解答編ですよ」と提示されるよりも、少し頭を使えば想像できるというこのさじ加減が素晴らしく良い。
ただそういう意味では、第3パートは蛇足であったように思う。それまで桜桃の主観であったのに、ボイス無しの???がでしゃばるのはいただけない。
また、あんな近未来ディストピアのような設定は、乙女のデカダンスを一人称で描いた本作においては、作中でみだりにプレイヤーに知らせるべきではない。それを打ち切り漫画やアニメよろしく、「実はこんな設定もあったんですよ!」と嬉々として見せびらかすような真似は、私個人の美的感覚からするとスマートではない、と思うのだ。
テキスト、音声について
テキストについては、本作の場合、音声と切り離してレビューすることは出来ない。だから例外的に、ここでは、テキスト、声優、音楽についてのレビューを統合している。
本作のテキストは、『未詳ノ記録』を除けば、女性主観で記述されている。地の文は独白的な文体であり、これは全部、声優(芹園みや)によって読み上げられる。台詞はエロゲーにしては多くないが、喘ぎ声などはBGVで再生される。
本作の台詞や地の文は、そのまま黙読すると、くどい印象がある。例えば、こんな具合である。
私が今目にしているもの……それもまた、知識の中では知っていただけのもの。確か、この器具は……穴を、無理矢理拡げるために器具だ。名前は、よくは憶えていないけれど、そんな器具。
その冷たい銀色の輝きがあまりに無機的で、そしてその冷たさが私に触れたときの感覚を想像してしまい、思わず顔がこわばってしまう。背中に水をかけられる、なんてものじゃない、もっと根本的な部分に当てられる冷たさ。
これはノベルならいいかもしれないが、ADVのメッセージウィンドウに表示される状況でならば、読みづらい。あの画面比7:3程度の枠内でゴシック体文字を読む場合には、なるべく短文で、台詞の多いほうが読みやすい。そうすると、このテキストはその真逆をいっているように思える。
しかし、これが感情の込められた音声によって朗読されるとするなら、事情は違ってくる。そして、それにタイミングの合ったBGVが加われば、普通のADVテキストよりも効果的に、いやらしいエロスを表現することができるのだ。
苦痛にもがき快楽に喘ぐBGVが、決して煩くなりすぎない程度に聞こえるなか、冷静に己を見つめる少女の内心が、飽くまで冷静に、しかし感情を込めて読み上げられる。そのギャップから生まれる官能さといったらない。まるで、少女がモノのように犯されるのを追体験しているかのような気分に浸れてしまう。
しかもそこへ、それはもう異様な一体感で、BGMが鳴り響く。このBGMは、低価格ソフトにしては珍しく、単体でも鑑賞にたえる出来で、それが絶妙なタイミングで用いられてくる。本作のエロシーンが最高に昂ぶるとき、BGMの効果は見逃せない。
エロについて
さて最後になるが、エロの内容については、かなりのハード志向だと思っていい。ただ、どこそこが見所だとは指摘できない。何故なら、本作のプレイ内容は、鬼畜・陵辱作品を多く扱っている当方からみても、そのどれもが魅力的で過激に思えるからだ。
具体的にどんなプレイがあるのか知りたければ、後述の「エッチ内容について」を読めばいい。また、一枚絵の5割はギュッと!の紹介ページ(復旧)で見ることができるから、そちらも参考にするといい。
ただし、出来れば「エッチ内容について」は読まないほうが、本作が貴方の好みにあっていた場合の充実感はより高まるだろうことは忠告しておく(※ネタバレ分を多く含むので)。
グラフィック 55/80点
基本CG枚数は、20枚。多くも少なくもない。
エロシーンは、すべて桜桃で20本。ただし、うち1本は純粋にエロシーンと呼べるかどうか微妙なところである。
一枚絵の出来については、単純に技術面でいえば、原画も塗りも並を超えるほどではない。サンプル画像を見たままのクオリティだと思っていい。このくらいのレベルで全体的に安定しているからだ。
キャラクターデザインについては、個人的にはたいへん良かったと思っている。黒髪で喪服で帽子に薔薇だなんて、退廃的な作品における私の好みのど真ん中だ。ただ、喪服に合わせて履くストッキングとしては、あのストッキングは厚手すぎると思う。もう少し肌の透けて見える程度のもののほうが、リアリティがあって良かった。
精液の描写は、単なる白濁ではなく黄みががった色合いであり、水のような液体ではなくどろどろとして、所々固まっているような質感である。拘束具や小道具のディテールはなかなか凝っていて、嗜虐心を煽られる。しかし一方で、ペニスや女性器などの描き込みについては、モザイク越しにみても、やる気が感じられない。
モザイクについては、サンプル画像と同程度。
システム 10/20点
基本システムは、だいぶ問題がある。既読スキップを有効にしない限り、CtrlやEnterでテキストを飛ばせない。バックログでは、現在のメッセージウィンドウに表示されているテキストも合わせて表示することはできない。セーブ&ロードも、コンフィグ画面でひとまとめにされてしまっている。これで本作が選択肢を多く含む作品であったなら、確実に不可をつけているところだ(※本作には選択肢が存在しない)。
エッチ内容について
作品情報
タイトル | 公衆快楽施設 Macht Frei. |
ブランド | EROTICA BLACK |
発売日 | 2009年11月27日 |
ダウンロード販売 | DLsite FANZA |
パッケージ通販 | Amazon 駿河屋 |