総評 145/200(良)
架空の19世紀末ロンドンを舞台にしたファンタジー(注)。エロゲの流行路線を無視し、言葉遊戯が好きな方々の嗜好を満たすことに特化している。①言葉遊び ②ヴィクトリア朝の文化 ③古典的な探偵小説 ④頭を使うボードゲーム などが好きな方なら、それなりに楽しめると思う。
『漆黒のシャルノス』を購入するかどうかは、体験版をプレイしてから決めたほうがいい。体験版で良い印象を受けたなら、製品版も大体においてその印象に適っている。いくつかのこと(後述)に注意した上で、購入を検討するといい。
シナリオ 55/80点
副題で示唆されているように、『漆黒のシャルノス』のテーマは、「明日を諦めないこと」「明日を夢見ること」といった未来志向だ。女主人公メアリは、明日を否定してしまった様々な人たちと遭遇するけれども、メアリ自身は親友と生きる未来のために、明日を諦めない。作品全体には陰鬱で悲劇的なムードが漂っているが、テーマそれ自体は前向きなので、鬱系が苦手な方でも楽しめると思う。
構成について
物語は、全10話構成。第1幕から第8幕までは前後編に分かれていて、第9幕と最終話は単独の話になっている(※ ただし連続性有)。一部を除く各話ごとの題名は、ヴィクトリア朝の作家であるコナン・ドイルや大デュマらの作品名に因まれている。実際の話を読んでみると、彼らの作品にインスパイアされたと思わしき痕跡が、所々見受けられる。
第3幕から第9幕までは、すべてパタン化した構成になっている。新たな登場人物のキャラクターさえ掴めれば、それ以降は大体どんな話か分かってしまう。このあたりについては、もっと工夫が欲しかった。
テキストについて
『漆黒のシャルノス』のテキストには、省略表現と反復表現が多様されている。地の文はまるで少女漫画のモノローグのようであり、台詞は言葉遊戯の塊のようなものである。
言葉遊戯に耐性がない方には、本作品は不向きかもしれない。具体的な『意味』の伝達よりも、意味深な『雰囲気』を伝えることを目的とした文体なので、人によってはイライラするかもしれない。だから購入前には体験版をやって、ちゃんと確認しておいたほうがいい。
世界観について
公式説明によると、『漆黒のシャルノス』は”スチームパンク・ホラー”であるらしいが、これはかなり不正確な表現だ。そもそも本作品の内容は、SFではなくファンタジーに属するものである。SF特有の科学考察その他の理屈っぽさの代わりに、言葉遊戯と乙女チックが補填されたのが、『漆黒のシャルノス』という作品である。
本作品にいう”スチームパンク”とは、過去のスチームパンク作品群のアイディアをパロディしたものに過ぎない。SF的観点からすれば、明らかにおかしいところが盛り沢山だ。なので、スチームパンクという公式説明はあまり真に受けずに、少女向けファンタジー作品を読むようにプレイしたほうがいい。
エロについて
実用性は皆無。エッチシーン”らしきもの”はあるが、テキストが実用させる目的で書かれていない。本作品に萌えはあってもエロはないので、そこは注意してほしい。
選択肢について
選択肢は皆無。AVGパートは、ただ読み進めるだけ。
不満点について
不満なのは、物語の最後の〆が微妙なこと。まるで一昔前に流行っていたセカイ系アニメのよう。
言葉遊戯で意味深なことを散々仄めかしてきたのに、肝心なところは最後までいってもぼやけたままだったり。最終幕の展開が、どこぞの打ち切り作品のように演出過剰で空回りしていたり。
設定が隅から隅まで深く掘り下げられている作品であったら、こういう終わり方でも”読者に解釈させる”作品として好意的に捉えることもできたかもしれない。しかし正直、この作品はそれほど深い作品ではないので、どうしても「ああ、上手くまとめられなかったんだなぁ」と思ってしまう。
グラフィック 50/60点
基本CG枚数は、71枚。そのうち10枚は、ラフ絵やポスターだ。ということは、基本CGは実質61枚しかないことになる。これは、フルプライス作品としてはだいぶ寂しい枚数だ。
だがそれを減点するとしても、『漆黒のシャルノス』のCGはとても質が良い。立ち絵のクオリティもとても高く、表情のパターンも豊か。ネオゴシックな雰囲気のある背景は、黒・灰色・青を基調として美しく、作品の趣旨にも適っている。
エロCGについては、実用性を期待しないほうがいい。正直、未成年でも購入できるH系青年コミックのほうが、まだ実用的なくらいだ。まあそもそも、本作品をエロ目的で購入する方はいないだろうから良いけれども。
音楽・声優 30/40点
音楽は、全17曲。ヴォーカル曲は、2曲。フルプライス作品としては、抜きゲー並みに曲数が少ない。
だが、ヴォーカル曲の出来は良く、BGMも効果的に演出に用いられている。例えば、チャペック先生から解放されたシャーリィと、メアリが、晩餐会の予定を話しながら夜道を歩いていくシーン……。あの白々しさを、地の文に頼らず、音楽と台詞だけで表現しているところが、本当に素晴らしかった。
キャラクターの声はフルボイスではなく、パートボイス。第1~2幕・最終幕はほとんどフルボイスだが、第3~8幕はボイス無しに近い。
声優さんの演技の質については、ピンからキリまで。声優1人で数役は当たり前。
メアリ | かわしまりの | ヘンリー | かわしまりの |
アーシェ | 金田まひる | ケインズ&アンリ | 金田まひる&歌織 |
シャーリィ | 野月まひる | ロビン・ファネル | 野月まひる |
モラン | 桜川未央 | マリー・ハドスン | 桜川未央 |
クローディア | 桜川未央 | ヴァイオラ | 中家志穂 |
ドナ | 中家志穂 | エリー | 中家志穂 |
ベル | 歌織 | ジェーン・ドゥ | 歌織 |
M | 越雪光 |
システム 10/20点
ゲームパートは、地味なボードゲーム風SLG。全8ステージで、1ステージは前半と後半に分かれている。前半と後半で、クリア条件が異なる。
ゲームパート前半の概要
前半は、マップ上のどこかにある4つの欠片の場所を特定し、それらを集める、という内容。メアリがセンサーのようなものを持っていて、それを利用して欠片の位置を特定する。
センサーには、現在メアリがいる地点から、4つの欠片が存在する地点までの最短距離が表示される。これをヒントに、欠片の位置を特定し集めることになる。
マップ上には、怪異や黒妖精と呼ばれる敵性MOBが存在する。メアリは黒妖精に隣接されると『状態』が低下する。メアリの状態は『希望⇒高揚⇒平常⇒落胆⇒絶望』の順に低下し、『絶望』状態で敵に隣接されると、ゲームオーバーとなる。怪異に隣接された場合は、メアリの状態にかかわらず、ゲームオーバーになる。
ゲームパート後半の概要
後半は、マップからの脱出がクリア条件となる。マップ上にただ一つだけ脱出ゾーンがあって、そこにメアリが到達すると、ステージクリアとなる。
また、クリア条件とは別に、ボーナス条件もある。ボーナス条件を満たすためには、何体かの黒妖精を誘導し、マップ上に存在する罠に嵌める必要がある。
ゲーム内容について
ゲームパートの難易度は、この手の頭を使うゲーム全般からすると普通以下。ただし、エロゲとしては難しいかもしれない。
こういうゲームは、プレイヤーがその解法・定石を見出せなければ、心から楽しむことは難しいだろう。全年齢向けのゲームをプレイするように、行き当たりばったりでやってもストレスが溜まるだけだ。また、見た目の派手さは一切ないので、この手のゲームを楽しめない方には、まったく向いていない。
不満点について
人によって合う合わないが激しいゲームだが、それだけで減点しようとは思わない。むしろ私は楽しめたので、これはこれでいい。
だが、全体マップを表示するのにいちいち場面を切り替える必要があったり、視点が固定だったりするのはマイナスだ。このゲームは自分と敵の位置を計りながらプレイするものなので、そこに煩わしさがあると、ストレスが溜まる。
また、マップ上に立てられるフラグの数に制限があるのも、いただけない。このゲームの定石は、要するに「欠片の存在範囲を絞り込む」ことにあるので、フラグは無制限に立てられたほうがいい。フラグ数に制限があると、自分でマップの複製を作ってから記入していかないといけないので、とても面倒くさい。
エッチ内容について
実用的なエロシーンは何一つない。メアリのエッチシーンもあるけれど、未遂で終わる。エッチシーンらしきものがあるのは、モラン、ジェーン・ドゥ、メアリの3人。他はない。