大帝国 感想

大帝国

総評 Ver.1.01 100/200(可) | Ver.1.02 120/200(可)

第二次世界大戦をパロディ化した星域制圧型SLG。

本作が駄作に近い理由は、はっきりとしている。筋の通らないストーリー、理不尽なゲームシステム、しょぼい戦闘グラフィックが駄目なのである。

しかし、それでも私は本作を最後までやり通した。欠点は明確なのに、なぜ遊び続けてしまったのか? その理由を未プレイ者に伝えるのはとても難しい。

食べ物に喩えるなら、本作はスルメのような作品だ。イカ臭さに耐えがたい一方で、食べ続けると癖になってしまう。それの何がそんなに美味いのかと問われて、改めて「何が」と考えても、はっきりとした答えは頭に浮かんでこない。とにかく臭気に耐えて、耐え忍んで咀嚼し、咀嚼し続けると美味しいのだが、誰かに薦める根拠は曖昧なのだ。

Ver.1.02 アップデート後

Ver.1.02パッチの適用により、理不尽なゲームシステムは大幅に改善された。しかし、ストーリーとグラフィックが大きく改善されることは勿論なかった。以前は限りなく駄作に近い出来であったが、Ver.1.02は少なくとも戦略パズルゲームとしては楽しめるレベルに達しているように思う。

シナリオ 10/40点

1. パロディとしての大帝国

大帝国01

シナリオは、日本視点で描かれた第二次世界大戦のパロディに、最近流行のヲタクネタを加味した内容だ。本作のストーリーは、宇宙を舞台に、近代史を陰謀史観的に皮肉った形で展開される。ほとんどの登場人物のキャラクターは当時実在の人物を極端化して造形されており、趣味としてアニメや漫画を好むなどヲタクライクな要素も加えられている。

パロディとは、元ネタを風刺または滑稽化することをいう。これを心から楽しむには、当然、元ネタについてある程度の知識が必要だ。元ネタに関する知識があればより楽しめる設定やエピソードも、本作には多数存在する。

例えば、メインヒロインの一人であるレーティア・アドルフは、絵画が好きである。この設定は、パロディ元のアドルフ・ヒトラーが、青年時代に画家を志していたことに由来するのは明らかだ。

独創性に欠けるヒトラーは、ウィーン美術アカデミーを受験するも不合格となった。「古典派嗜好」の彼は、近代美術に対して強い嫌悪感を持っていた。そのため権力者となると、近代美術を「頽廃芸術」と呼び、弾圧したという歴史がある。

この史実を知っていれば、東郷から画材を貰ったレーティアがどんな絵を描いたのか、もしドクツが勝利していれば抽象芸術はどのような扱いを受けていたかなど、本編では触れられていないことを想像してニヤニヤできる。

また別の例をあげれば、朽木=イザベラの家族が強制収容されていた日本人収容所は、実際にあった制度施設である。強制収容所というと、ナチスのユダヤ人収容所ばかりが指摘されがちだが、大戦時のアメリカも同じように、日本人移民たちを強制収容所に送り込んでいた。

しかもこの暴挙は、世論の後押しを受けていた。屈辱的な忠誠審査が行われ、日系人部隊に入るのは米国への忠誠を示すものとされた。日本人収容所については本編でもあまり触れられていないが、この史実を知っていれば、朽木=イザベラの微妙な立場により生々しいものを感じられるだろう。

このように、本作のシナリオを楽しめるかどうかは、元ネタに関する知識の有無が無関係ではない。パロディは本編中でいちいち元ネタの解説をしないことを美学とするので、知らなければずっと分からないままである。本作のシナリオは8割方パロディで成り立っているといっていいから、元ネタの理解が絶望的だと、最初から最後までいまいち楽しめないことになりかねない。

しかし、このことは本作の欠点ではない。本作は、前宣伝からしてガチガチのパロディであることは明らかなのだから、プレイヤーがたまたま元ネタを知らないことは制作側の責任ではない。歴史ヲタにしか楽しめないレベルのマニアックであるならともかく、これくらいならまだまだ、「人を選ぶ作品」と称して済まされる程度だろう。

2. 筋の通らないストーリー

このシナリオ最大の欠点は、パロディであることではなくて、ストーリーに筋が通っていないことだ。

本作は、国家間の戦争をモチーフにしているのに、戦後処理にけじめをつけることを放棄している。仮にもこれは戦争であるのに、(敵に対しても味方に対しても)信賞必罰という最低限の不文律が守られていない。

この点、シリーズ第1作の『大悪司』(ヤクザの縄張争い)では、敗北した勢力はすべてを失い、悪司組の傘下に入ることでけじめをつけた。敵のヒロインが悪司組の仲間になるときも駆け引きがあったし、恭順を示さない場合は拷問されるか、処分されるか、あるいは娼館に送られてボロボロになるまでこき使われた。

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では、『大帝国』の場合はどうか。東郷というたかが海軍長官の一存で、すべての戦争犯罪人の処遇が決まる。大虐殺の主犯クラスでも、女子供であれば、たとえ反省の色がなくても免罪されてしまう。そればかりか、いきなり提督待遇で迎えられ、彼女らの将来は安泰となる。敵対星域は日本(の植民地)となることで今までよりもHAPPYになり、日本サイコー、たまに反乱が起きても即鎮圧すれば治安は変わらずだ。

こんなふざけた話があるか。どんなにファンタジーな世界観であっても、モチーフとしたものに応じて最低限のリアリティは確保されるべきだ。しかし『大帝国』においては、その最低限すら確保できていない。

3. テンポの悪いゲーム進行

本作のゲーム進行は、非常にテンポが悪い。

『大悪司』では、こちらとまだ対立していない勢力のエピソード進行は最低限に抑えられていた。そのためゲーム進行はスムーズで、全体のストーリー進行とのバランスが程良く取れていた。

しかし『大帝国』では、初期の段階から日米英仏独露伊その他の国々のエピソードが順次進行するため、1ターンを終えるまでにかなり時間がかかる。こちらはさっさと侵攻を進めたいのに、毎ターン、微妙なエピソードの数々で邪魔をされてしまう。

大帝国03

また、イベントフェイズにおいて、1ターンに1つのイベントしか観ることができないのも問題だ。100ターンかけて全星域を制圧しても、ほとんどのイベントは未消化のまま残っている。

エンディングを先送りにして残ったイベントを消化するのは、いかにも作業的だ。周回して観るにしても、各キャラの参入時期や条件、イベントで得られる特典の都合から、全部をスムーズに消化するのは難しい。

4. 手抜きなエンディング

実績登録される本編のエンディングは、全部で8つもある。さらに、特定の条件を満たした上でいずれかのエンディングを観ると、番外編であるキングコア編が開放される。

エンディングの数だけは多いが、それに到るまでの過程はあまり変わらない。キングコア編やアドルフルートは例外として、それ以外は9割方共通ルートで最後だけ違う、といったところだ。それだけならまだしも、ED用CGが用意されていなかったり、本当に最後の最後の展開が少し異なるだけのエンディングが半数を占めていることには不満がある。

5. 中途半端なエロ

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エロは、和姦と凌辱どちらにも徹しきれていない。本編と番外編で和姦と凌辱を分けたかと思えば、本編中でも凌辱される展開がある。しかもそれは、見苦しいことに立ち絵だけで描かれるので、いったいそれで誰が得するのかと理解に苦しむ。

本編のエロシーンは、取ってつけたようなものばかりだ。捕虜となったヒロインとのセックスを、僅か数回のイベントを経て無理やり和姦にしようとするものだから、エロシーンに到る過程が不自然になっている。

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キングコア編では徹底凌辱するものの、ヒロイン一人につき平等に1回ずつしかCGつきのエロシーンがない。その後は、立ち絵だけで少し卑猥なことをやって終わりである。所詮はおまけ、こんなものでは満足できない。

エロテキストの質は、出来の悪い低価格ゲーム並。中途半端な尺で中途半端に終わる、萌えゲーにも劣るエロシーンが展開される。このシリーズは、もともとエロテキストの出来が良いほうではないが、本作のそれはシリーズ中の底辺に位置する。

システム Ver.1.01 20/60点 | 1.02 40/60点

1. 理不尽なパズルゲーム(Ver.1.01以前)

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本作の面白さは、ストラテジーというよりは、パズル的な面白さに尽きる。

敵対星域の保有戦力と陣形は、ターン経過とその他条件に応じた世代ごとに一定である。戦術フェイズでは時間制限がなく、勝利条件は常に同じ。さらに戦闘においてランダム要素は一切ないので、勝敗は戦う前から100%決着している。敵軍を攻める自軍の艦隊編成・配置が勝負の全てであるから、『大帝国』における戦術とは、パズルゲームの「あのピースをどこに嵌めると、効率良くブロックを消せるのか」という試行錯誤と大差ない。

パズルゲームとしての『大帝国』は、Wikiで主要イベントや敵星域情報を把握したうえでプレイするぶんには、面白いのではないかと思う。その場合の面白さは、複数解のある詰将棋のようでもある。

ただし、Wiki等で情報を仕入れていない状態では詰将棋ですらなかった。何故ならば、詰将棋では持ち駒や駒の配置が事前に示されるが、本作では事前にそれらを知ることはできないからだ。

敵戦力を事前に把握することは、どんなストラテジーゲームにおいても最も重要なセオリーである。戦略とは相手の情報があってこそ成り立つものだから、当然のことだ。しかし本作(Ver.1.01以前)には、何故か敵星域や敵侵攻軍の戦力情報を知るための手段(偵察コマンド)が存在しない。そのため、正規のやり方ではまず戦略を立てることができなかった。

戦略を立てずに敢えて敵星域に突っ込むと、もはや撤退すら許されない(攻める場合に撤退コマンドなど存在しない)。こちらがどんなに不利な状況だと分かっても、飽くまで敵軍基地の占領を強要される。そこで無理やり占領しようとすると、案の定、陸軍が壊滅。彼我にどれだけ国力差があっても、ただ1戦負けたというだけで、何故かそのままゲームオーバーとなってしまう。

では、それを避けるためにどうするかといえば、一般的にはSave&Loadで攻略することになる。敵星域に攻めこむ前にセーブしておき、適当な艦隊を敵星域に侵入させる。そして敵艦隊の編成・配置をメモしたら、ゲームをリセットする。それから直前のセーブデータをロードし、改めて対策編成した艦隊を同じ星域に侵攻させるのだ。

これが、Ver.1.01以前における『大帝国』攻略の常套手段であった。敵星域に攻める場合には、セーブ可能な戦略フェイズの直後に戦術フェイズが訪れるからまだマシだが、敵に侵攻される場合にはセーブ不可能なイベントフェイズ、敵軍フェイズを待たなければならない。偵察コマンドがないという実に間抜けな仕様のために、プレイヤーはわざわざこんな面倒なことをやる必要に迫られたのだ。

もっとも、いちいちそんなことをせずにWikiを参照にすればいいのではないかとも思える。実際、Wikiに情報があると分かっているなら、ほとんどの人はそうするだろう。しかし、Wikiは飽くまでユーザーが作るコンテンツなのであって、制作側の作品ではない。Wikiの利用を前提に評価するのは、作品のレビューとしては論外なやり方であるから採用しない。

2. その他の不満点(Ver.1.01以前)

1.で指摘したこと以外にも、Ver.1.01以前の不満点はいくつかある。それは、(1)時代錯誤のセーブ機能、(2)初見殺しのイベント、(3)艦隊編成の操作性の悪さ の3つだ。

セーブ&ロードは、ゲーム中、戦略フェイズ以外では実行できない。このため、1-4で述べたようなS&L攻略に支障が出る。また、戦略~戦術フェイズを終えて一息つこうと思っても、次のイベントフェイズ~敵軍フェイズ~冒頭イベントではセーブできない。しかもそれらは、戦略~戦術フェイズに比べて時間がかかる場合が多い。そしてそれらを無事終えたころには、戦略フェイズにおいて新たな状況が発生していて、息をつく暇がない。

『大帝国』は、プレイヤーにマイペースを許さない。ゲーム側が常に主導権を握っているかのようだ。時間制限イベントがゲーム進行の余裕を無くし、降って湧いたような災難がそれまでの戦略プランを滅茶苦茶にしてくれる。

ターン経過や条件で発生するイベントのほとんどが、初見を殺しにやってくる。イベント発生のタイミングが唐突すぎ、発生した時点で状況が大きくひっくり返ることもしばしば。問答無用で戦闘せざるを得ない状況に置かれるが、その戦闘星域の付近に艦隊がいないか編成が脆弱なので、そもそも戦う前から失敗している、ということもあり得る。『大悪司』にも嫌がらせのようなイベントはあったが、これほど理不尽なのは『大帝国』にしかない。

艦隊編成の操作性の悪さは、もっと改善される必要がある。提督間の艦船交換や提督画面からの直接造船・配備、提督一覧の条件指定ソートは最低でも可能にすべきだ。

3. Ver.1.02による改善

Ver.1.01以前の『大帝国』のゲームシステムは、明らかに不完全な出来だった。しかし発売日から約2週間後、アリスソフトは事実上のシステム改善アップデートであるVer.1.02パッチをリリースした。意に反して有料βテストに参加させられたユーザー達の批判を反映したこのパッチは、未完成なゲームシステムの欠陥をほぼ補完することに成功した。

Ver.1.02パッチによって、1.~2.で批判した項目は次のように改善された。

偵察機能の実装 自国星域と隣接する敵星域の戦力情報を閲覧できるようになった。これによって、相手の情報を知るためにS&Lを繰り返す必要がなくなった。

セーブ機能の改善 現在のターンあるいは直前の侵攻戦までゲーム進行を戻せるようになった。また、F5・F6キーでセーブ/ロード画面を閲覧できるようになった。しかし、戦略フェイズでしか通常のセーブ&ロードを行えないことについては変更はない。

造船/廃艦ボタンの追加実装 提督画面から直接造船・配備することができるようになった。

この他、1.~2.では特に触れていない部分についても変更が加えられた。その詳細については、公式サイトのアップデートページを参照にしてほしい。

それらの変更のうち特に目立つのは、ユーザーが自分で作成した提督をゲームに登場させられる機能だろう。ユーザー提督の作成・追加は、特別な知識がなくても、誰でも簡単に行える仕様だ。やり方については、このページからサンプルと説明書を入手してほしい。

その他のゲームシステムに関する変更は、基本的にゲーム難易度を低下させる内容である。さかな初期戦力機能の実装は、あまり意味がなかった建築物『魚市場』に建築する価値を持たせている。

グラフィック 40/60点

基本CG枚数は、152枚。本作のグラフィックで褒められるのは、この枚数とキャラクターデザインだけである。

回想114本のうち、エロシーンは108本(その内訳については、後述のリスト参照)。

キャラクターデザインは、どのキャラについても気に入っている。他ブランドの作品では、髪や服装でしか見分けのつかないマトリューシカや、明らかに手抜きして描かれた男性キャラが主役を張っているなか、本作では全てのキャラクターが個性的に描かれている。これはとても高く評価できるポイントだ。

大帝国07

艦隊戦は迫力に欠ける。一方の艦隊が艦砲を一斉射し、もう一方の艦隊がそれを受けて壊滅――これで終わり。激しく撃ち合うどころか、悪ければ一発で決着する艦隊戦。しかも艦隊のビジュアルには重量感がまったく欠けていて、すべてミニチュアの玩具に見える。こんなふざけたグラフィックで艦隊戦を描かれては、戦闘の爽快感などあったものではない。

大帝国08

一枚絵は、質の良し悪しにバラつきがある。ノーマルな和姦絵には質の悪い絵が多く、アブノーマルな絵や非エロには良い絵が多いように思う。あるいは複数原画らしいので、原画家のレベル差がひどいのか。私の好きなキリング姉妹のエロCGが、本編のものはすべて低質だったことにはがっかりだった。

モザイクによる修正は、サンプルCGと同程度。肛門は挿入前から修正されている。

音楽・声優 30/40点

オープニングは、男も女も声入りで、さらに主人公まで声入りということで驚かされた。だが、それ以降は声無しとなってがっかり。パートボイスだが、エロシーン以外の場面で「なぜここに声が入って、あそこには声がないのか」と釈然としない場面も多々あった。主人公の声は、オープニングとエンディングくらいにしか入っていないので、これならそもそも必要なかったように思われる。また、人数が多いせいか、演技に不満のあるキャラも何人かいた(キャロルとか真希とか)。

作品情報

タイトル 大帝国
ブランド ALICE SOFT
発売日 2011年4月28日
ダウンロード販売 DLsite DMM
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