あらすじ
元『逢魔刻』の娼婦 ヴィザルは、セントサウスで小規模ながら事務所を構え、金融業などを営んでいた。ある日彼女は、腐れ縁のあるサブナックから不可思議な荷物を預かった。その荷物とは、人の腰丈ほどの大きさで、重さ数百キロもある木偶人形だ。ヴィザルが好奇心からその木偶を弄りましていると、ふと声が聞こえた。
「これ、なにをしとるか」 木偶人形が喋り、木偶人形が動いたのだ。彼(彼女)――コルクは、人の記憶を動力源にして動く軟木製のゴーレムだった。
コルクはすでにヴィザルを主として認識してしまっていて、主の再認識は不可能な状態であった。ヴィザルはやむを得ず、コルクをサブナックから引き取ることになる。こうして、ヴィザルとコルク、二人の共同生活がはじまった。
総評 75/100(良)
前作『紅湖の皇子』と、世界観と時代を共有する作品。とはいえ、作品の全体的な完成度は、本作のほうが前作よりも圧倒的に上である。特に、グラフィックや音声面の向上には目覚しいものがある。
前作が好きな方なら、何だかんだ言って楽しめる作品ではあると思う。ハーフプライス作品以上のボリューム感があるので、少なくとも買って損した気分になるような作品ではない。
シナリオ 20/30点
前作との関係では……
本作は、前作ではリアン、レヴィアル側の視点で描かれていたストーリーを、新主人公 ヴィザルとコルクの視点から構成し直したものである。
時系列的には、リアン、レヴィアルが村を出てから、セントサウスが崩壊するまでを描いている。序盤では、もっぱらヴィザルとコルクの生活や、その周辺人物たちとの関係が描かれるが、物語が進めば進むほど、前作において重要な場面がリンクしてくる。
本作からはじめたプレイヤー向けに、前作で描かれた内容を把握させるための工夫は見受けられるものの、それは飽くまで最低限に留まる。前作プレイ済みの方と未プレイの方とでは、おそらく、リアン、レヴィアル、そしてセイルに対する認識がだいぶ違ってくるだろう。
実際、本作は前作を別視点で描いたものだけあって、前作のストーリーに別解釈を与えることを狙って描かれているようだ。本作のストーリーは前作よりも優しい愛情に包まれており、前作主人公の身勝手な行いを窘める要素を含んでいる。また、前作キャラクターの意外な側面についても強調されており、前作プレイ済みの立場からすると、「ギャップに萌える」とか、もしくは「キャラが崩壊している」といった感想が出てくるだろう。
私は、クリノラスが弄られキャラとして描かれている点については萌えたが、
という後付設定については納得しかねる。これでは、前作におけるセイルの人物像と著しく矛盾する。いちおう、セイルが「あの時点でああしなかったのは~という理由があったからだ」といった理由づけがなされてはいるが、あんな取ってつけたような理由で納得できるか、と言いたい。
本作それ自体については……
本作の物語は、前作に比べ、物語のテーマ性よりも登場人物たちのキャラクター性を際立たせて描かれているようだ。
元『逢魔刻』の娼婦であったヴィザルは、今では金融・代行業者として独立しているが、独り身の女だ。そんな彼女のもとへ、爺ちゃん言葉で話すヘンテコな木偶人形のコルクがやってくる。コルクを起動させた瞬間から、ヴィザルは否応なくして彼(彼女)のご主人様に。「コルクの商品価値を貶めたことで、その責を問われたくなければ」――フラウロスから言外に脅され、ヴィザルは『逢魔刻』への債権額の7割と引き換えに、コルクを引き取ることになる。
ここまでのあらすじを読む限りでは、何だか踏んだり蹴ったりな話である。ヴィザルは当初、コルクを引き取ることについてあからさまに嫌そうな反応を見せる。多額の債権を失ったあげく、何だかよく分からないものの面倒を見なければならないのだから、これは当然の反応だろう。
しかし実際にコルクを引き取った後は、ヴィザルは彼(彼女)につらく当たることなく、むしろ大切な家族として接するようになる。
コルクの率直な性格に惹かれたのだろうか? 独り身の寂しさもあったのかもしれない。あるいは、コルクの見た目と中身のギャップに萌えてしまったのかもしれないし、オーク種亜人の彼女にとって、数百キロ程度の彼(彼女)は抱き枕として丁度良かったのかもしれない。
何にせよ、そんな彼らの日常は、私には愛らしく思える。クリノラスの剛毛を躊躇なく毟り取ってしまうヴィザルが、コルクの前では過保護な母親かお姉さんのような反応を見せる、そのギャップが面白い。
ヴィザル、特にコルクは、何だかんだ言って、周囲の人たちから愛されている。それは、『逢魔刻』の館長やその秘書でさえ、例外ではない。それゆえに、彼らの日常は前作キャラクターたちの新たな一面を呼び起こし、前作ファンに対し新鮮な面白さを提供してくれている。
でも、荒削りなのは相変わらず
物語は中盤くらいまでは安定しているのだが、それ以降が駆け足となり、クライマックスに至るころには超展開になっている。それまでは日常の掛け合いと、来るべき災厄への不安がバランス良く、ゆったりと展開していたのに、最後の最後で中二病全開のバトル!バトル!になってしまったのには、やや失望した。
テキストは、前作未プレイの方への配慮からか、冗長で説明的な記述が増えた。ある程度説明的になるのは仕方ないにしても、本編と直接関係ないところはちゃんと削ってほしい。
エロシーンについては、前作と違って本編中には絡まず、幕間に閲覧できるアルバムといった形式で提供される。エロの過激さは前作よりも薄れた。正直、前作と同じであまり使える内容だとは思えない。
グラフィック 30/30点
基本CG枚数は、ギャラリーに登録されるものだけで56枚。戦闘シーン等で用いられるCGも含めると、もっと多くなる。
エロシーンは、10本。その内訳は、ヴィザル(3)、フラウロス(1)、セイル(5)、メイコ(1)となっている。
CGのクオリティは、前作から大幅に向上した。特に、立ち絵の質の向上は凄まじい(リアンとセイルなんて、まるで別人だ)。立ち絵の使い方も上手く、日常場面でのムードを適切に盛り上げてくれていた。また、一枚絵や立ち絵だけでなく、背景もずいぶんと美しくなっていた。
モザイク修正については、相変わらずいい加減。アナルも挿入前から修正されている。
音楽・声優 15/20点
今回は、低価格同人ゲームとは思えないくらい、ボーカル曲が大量に入っている。単体で聞くにはどれも悪くないと思うが、ただその演出配分が後半のクライマックスに偏りすぎているため、違和感がある。
SEについては、大げさな挿入音はまるで修正されていない。
声優さんについては、新規で加わった声優の演技はとても良い。特に、主役級のヴィザルとコルクについては良い仕事をしていたと思う。一部の前作声優の演技は相変わらずアレだったが、前作よりも上手くなっている声優さんもいる。
なお本作から、フラウロスの声優が交代された。私は前作のドSっぽい声質のほうが好きだったし、プレイ期間に間がないので、けっこうな違和感を覚えた。
コルク | 一美郷 | ヴィザル | 高梨遊良 |
メイコ | 夕凪雪 | フラウロス | 夕凪雪 |
セイル | 山里京 | リアン | たちばなえみ |
ライエ | 鳴鈴 | サブナック | sinsay |
クリノラス | 大和倭 |
システム 10/20点
基本システムは、前作と比べると多少マシにはなった。しかし、セーブとロードを右クリックメニューに含めるのは止めてほしい。また、メッセージウィンドウを消すのに、いちいち右クリックメニューからグラフィックを選択しなければならないのは面倒くさい。
エッチ内容について
作品情報
タイトル | ヴィザルの日記 |
ブランド | 雨傘日傘事務所 |
発売日 | 2009年12月25日 |
ダウンロード販売 | DLsite FANZA |